IDEA|WORKS

Motorists hotel:日本精機宝石工業(JICO)様

JICO
Motorists hotel
長旅の疲れや距離の隘路を忘れさせる音と世界観
目的
音楽機器のパーツを作成しているクライアント。倉庫として使用していた部屋を改修して大音量で音楽を流せる試聴室をつくる計画。
アイデア・戦略
主要都市から距離のある立地だが、そこで独立独歩の精神で唯一無二の企業となった歴史と誇りを新しい視点からカタチにする。
実施
立地を鑑み、アメリカ文化の一つである「MOTEL」と見立てて構成。 単に物が置かれていた倉庫を、会社の技術と歴史を感じてもらう場として昇華する。

 

EPISODE:JICO1

今回、倉庫として使用している場所に「試聴室」とその前室を作りたいとの依頼を受けました。

依頼主は、レコードの針やレンズクリーナー、歯科用バーなどを製作している企業様です。

アメリカなど海外にも顧客を持つクライアントからは「今までにないカッコいい試聴室に」というオーダーを頂き、計画を始めました。

 

 

第一の作業:コンセプト作り

コンセプトを作る為に必要な材料は、クライアント企業の歴史や事業内容、経営者・創業者・社員の想いなどです。

これらはその企業の「個性」である為、ここを活かすことから始まります。

 

主要都市から距離のある立地のため、車でも3~4時間かかるところですが、

それを逆手に取り、独立独歩の精神で設計・製作から修理まで全てを行える技術を獲得し、唯一無二の企業として活躍されています。

また、この土地との繫がりを非常に大事にされていました。

 

この「長い距離を車で来る」というのをアメリカ文化の一つ「MOTEL」と重ねました。

 

また、荒々しい岩盤がむき出しのリアス式海岸が近く、のどかな空気感のある環境。

これらを踏まえ、アメリカ西海岸の乾燥地帯、とりわけパームスプリングスをイメージした空間を提案しました。

 

コンセプト「Motorists’ hotel(MOTEL)」

 

 

写真:JICO社(青い屋根)の周辺環境

 

 

第二の作業:空間イメージの作成

設定したコンセプトに対してどの様な表現で詰めるのかを考えます。

色や素材、そして置くもの(家具類)。

 

ここで改修ならではの掘り出し物に出会いました。

応接室にあったVictorの前身Victrolaの蓄音器です。

音楽に疎い私でもこの音を聴いた時、鳥肌が立ちました。

電源を必要としない蓄音器は、雑味ある懐かしくも独特な音を奏でてくれました。

 

また、この蓄音器の針は2,3回聴いたら交換しなければいけません。

針を作り続けなければ、この蓄音器はインテリアになってしまう。この蓄音器は、クライアントと一心同体なのだと思いました。

この体験と思いつきにより、ただの談話室となりかけていた前室を、

「企業と共に在り続ける象徴として、この蓄音器を聴くだけの部屋にしましょう」という提案をしたところ、二つ返事で快諾頂きました。

 

 

写真:試聴室(工事前:倉庫)                      写真:前室(改修前:倉庫)

 

 

写真:Victrolaの蓄音器

 

 

前室はVictrola roomとして、空間イメージを組立てました。

蓋を開ける、レコードを置く、レバーをゆっくりと回す、針をそっと落とす。

音が流れるまでの全ての所作もショーとして演出して頂きます。

 

華美な装飾は避け、ただ豪華にすることはしません。

贅を尽くした空間はどこにでもある、都会なら尚更溢れかえっています。

古き良きを残しながら、質素な家具の構成と贅沢な空間の活用を用いて、ここにしかない空気感で、他にない違いを演出します。

 

 

前室(プロセススケッチ)                          前室(手書きイメージ)

 

 

JBL4343とB&Wを聴く為のこの試聴室はスピーカーを主役とし、

スタイリッシュかつビンテージ感のある

コンセプトに沿ったアメリカンなイメージを演出しています。

 

また、スピーカー裏の吸音材は吸音効果のある「木毛板」を採用。

現代的な素材を極力廃し、ビンテージ感を崩さない空間づくりを行う事で、他にない試聴室とします。

 

型を崩す、壊す、外す。

このひねくれている様な考え方が、新しいものを生み出すために必要な要素と考えます。

この場所にはるばる訪れる人の事と会社の未来を思えば、ここは他にない場所でなくてはならない。

 

 

試聴室(プロセススケッチ)                           試聴室(手書きイメージ)

 

 

第三の作業:図面作成

ここまで固めてから、図面で表現を行います。

空間イメージと同時並行的に行いますがスケール感の確認程度で、補助的なものになります。

 

他社では図面作成からスタートするところが多いのですが、私たちはそこに至るまでに時間をかけます。

それは出来上がった後の効果を見据えたものです。

※この点については続きがあります(EPISODE:JICO2参照)

 

 

スケッチ3

写真:図面(プロセス)

 

 

 

完成写真

 

試聴室1

シンプルでビンテージなイメージを演出。

 

 

空間のイメージを壊さない様に、照明器具・カーテン・時計に至るまでをデザインする。

 

JBLの低音が強いスピーカー

 

試聴室:全体

 

前室:全体

前室:試聴室へのドアとVictrolaの蓄音器を望む

 

 

DATA

所在地
兵庫県

CREDIT

DIRECTOR
Kenichi Makita
DESIGN
Kenichi Makita
CONSTRUCTION
KAKEHI CONSTRUCTION CO.,LTD.
PHOTO
Shotaro Kaide